潜在意識を顕在意識に変革させたのが……俳句の心

           顕在意識→連想→潜在意識の心の流れ
                児 島 庸 晃
 実感の重みと言えば、そこには必ずと言っていいほど潜在意識を内包している作者の意志が色濃くある。その潜在意識を顕在意識に変革させたのが次の句である。
   あやとりのエッフエル塔も冬に入る   有馬朗人
俳句総合誌「俳壇」2005年8月号より。作者は「天為」主宰者。元東京大学総長、元文部大臣。ここにある作者の抒情は句の発想においての思考の中に顕在意識→連想→潜在意識の心の流れがとても強くある。作者の見えている光景を、ただ単に見ているだけなれば、何の感情などは発生しないのだが、作者が興味をもつに至った見えている光景には感情が生まれる。このとき作者の心には潜在意識があっての興味が生まれる。この句の場合には「あやとり」の目視より「エッフエル塔」の発想がなされている。「あやとり」の動作により出来上がるまでの過程の中に、幼い頃お母さんに作ってもらった「エッフエル塔」の形のイメージがあるのだろうと思う。この部分が作者の心に残り、今も持ち続けている潜在意識があるのだろうと私は思った。その季節は冬。まさしく句の始まりは「冬に入る」の俳句言葉なのである。「冬に入る」の俳句言葉の顕在意識より連想が始まり、「あやとり」の今へと繋がる。所謂一連の感情の流れの中に顕在意識→連想→潜在意識と言う作者の思い出を引き出しているのである。この句の素晴らしいのは素直な作者の気持ちが読者に素直に伝わってくること。即ち顕在意識→連想→潜在意識と言う心の流れが素直に行われたからであろうと私には思われた。俳句は一句の中に唐突な言葉は使えない。句を成し得る過程には一連の心の流れがあり、それが顕在意識→連想→潜在意識の心の流れを作っているからなのである。